駒場にある旧前田家本邸(旧前田侯爵邸)は、昭和4年(1929)に洋館が、昭和5年に和館が竣工しました。
洋館1階は社交の場、2階は前田侯爵家の生活の場でしたが、戦後連合軍に接収されたのちに東京都から目黒区に移管され、現在では公園として無料で見学することができます。
内装は近年、前田侯爵家が暮らしていた当時のものに復元されており、旧前田侯爵邸の現在・改装前・そして前田侯爵家が住んでいた当時の写真を比べてみて歴史を振り返り、華族の生活を垣間見てみようと思います。
前田侯爵邸が舞台の小説「抱擁(辻原登)」を読んでから訪れると、さらに興味深いかも。
外観
⇩ イギリスのカントリーハウス風の意匠でまとめられた旧前田侯爵邸。
⇩ 建物正面の右手から芝庭に向かうと、芝庭に面して三連アーチが美しいベランダが設けられています。
⇩ 過去に訪れたときに撮影した、ベランダの内側からの風景。
⇩ 洋館から和館へ向かうまでの途中には、前田侯爵家に仕えていた人や出入り業者用の出入り口があります。充分豪華です。
⇩ それでは車寄せのある玄関から入ってみましょう!
洋館1階 サロンや大食堂など社交の場
⇩ 玄関を入ると、重厚な雰囲気の階段広間です。
⇩ 前田侯爵家が暮らしていた当時の写真。絨毯や植物で飾られ、一層豪華な雰囲気です。
⇩ すぐ右手にはサロンがあります。
⇩ 当時のサロンです。
⇩ サロンの手前には第一応接室があり、ここは夫人や令嬢が大学教授や画家などを招き、講義を受けていたお部屋です。
⇩ サロンから階段広間方向。なおカーテンの多くは取り外して保管されていたので、それを倣って復元されています。
⇩ 数年前の改装前のサロン。今となってはカーテンに違和感が。
⇩ 玄関の方向へ振り返ってみます。画面左奥の扉の向こうにちょこっと写っているのが第一応接室。
⇩ 階段広間を奥へ進みます。階段下のスペースには暖炉とソファが設けられたイングルヌックという名の談話室。
⇩ 階段広間を右に入ると、白いマントルピースが優美な小客室。
⇩ 当時の小客室。
⇩ 小客室に続く大客室。この日はイベントの展示中。
⇩ 当時の大客室。社交の場といった雰囲気です。
⇩ 現在の大食堂。この日前田侯爵がここで楽しんでいたであろう、蓄音機の音楽を聴くイベントがありました。
⇩ 蓄音機の音楽の動画です。昭和初期の華族の方々が集った場所で、彼らが聞いていた音楽を聴けるのは貴重な体験でした。
⇩ 過去に撮影した大食堂の写真。右側の扉の奥は大客室です。カーブした窓がステキです。
⇩ 当時の大食堂。晩餐会といった席の並びです。
⇩ 現在の小食堂。前田侯爵家の方々は普段、ここで食事を摂ったそうです。
⇩ 当時の小食堂。食卓自体は普通で、ちょっとほっとする。
⇩ それでは階段を上がって2階へ進みましょう!
洋館2階 前田侯爵家の生活の場
⇩ 2階の階段広間からはステンドクラスや透かし彫りがステキです。
前田侯爵の書斎
⇩ 最初は前田侯爵の書斎次の間です。次の間の右奥に見えるのが書斎です。
⇩ まずは書斎の応接スペース。
⇩ 書斎の奥には大きな本棚とデスク、壁には菊子夫人の肖像が飾ってあります。
⇩ 前田侯爵家が住んでいた当時の書斎。
⇩ 数年前に撮影した改装前の書斎。やはりカーテンに強い違和感があります。
侯爵夫人の夫人室
⇩ こちらは夫人室。前田侯爵邸の中で一番華やかなお部屋です。
⇩ 絨毯は前田家にて使用されていたオリジナルを修復したものです。
⇩ ここは侯爵家の家族が集まるくつろぎのリビングの役割を果たしていたそうで、ご夫妻は朝食をここで摂っていたそうですよ。
⇩ 当時の夫人室。華やかながらも、生活感がありますね。
⇩ 数年前の改装前の夫人室。全然雰囲気が違います。
侯爵ご夫妻の寝室
⇩ ご夫妻の寝室。ベッドの枕元の壁の棚は、守り刀を納めていました。
⇩ 当時の寝室。
⇩ 数年前の改装前の寝室。
長女居室
⇩ 長女の居室。立派なお部屋ですね!
⇩ 当時の部屋の様子。ベッドが無ければ執務室のようで、いかにも侯爵令嬢のお部屋という感じです。
⇩ ちなみにこの部屋の主である長女の美意子さんは後に酒井家に嫁がれ、このお屋敷で暮らした日々などについて何冊か本を出されています。
次女居室
⇩ 次女の居室には重厚だけどモダンなマントルピース。
⇩ 当時の次女居室。ぬいぐるみやお人形用のベッドがあって、まだ小さな女の子のお部屋って感じです。
三女居室
⇩ 三女居室。もともとは菊子夫人のお化粧やお仕度の部屋でしたが、三女誕生後は三女のお部屋になりました。
⇩ ベッドはベビーベッドで、たくさんのお人形が飾ってあります。
三男居室
⇩ 三男居室。もともとは予備のゲストルームでしたが、三男の居室として使用されました。
⇩ 当時の三男居室。男子は日常は他家にて教育を受けていたため、ここで過ごす時間は少なかったようです。
2階 使用人たちの部屋
2階には前田侯爵家の生活の部屋とは別に使用人たちの部屋もあり、こちらも公開中。
会議室
⇩ 前田家の評議員が集まった会議室。
⇩ 当時の会議室。陸軍の部下を招いて宴会を行うこともあったようです。
女中室
使用人たちの部屋の中には、女中のための私室もいくつかありました。
前田侯爵家の女中たちは、前田侯爵家のお膝元である金沢の金城女学院の優等生が毎年行儀見習いで来ていたそうで、良家の子女を預かっていることから、環境もやはり立派です。
⇩ ちゃんと畳敷きで窓も多く、とても快適そうなお部屋です。
⇩ こちらは当時の女中溜(女中の職場?待機室?)の様子。お茶の用意のための水屋完備で、ミシンも置いてあります。
和室のこのお部屋で、百貨店の店員が御用聞きでこの部屋にやってきては、ここで反物を広げていたのだそうです。
展示室
⇩ 現在の旧女中溜は、今では展示室になっています。水屋と押し入れは無くなっています。
⇩ 展示されている前田侯爵家ご一家の写真。右端の長男ご夫妻が美男美女カップルでステキ。後列中央の背の高い女性が、後年本を執筆した長女美意子さん。
⇩ 前田侯爵がイギリスから帰国するときに使用したトランク。家紋が入ってカッコ良い。
⇩ お屋敷についての解説も載っています。こちらは1階の社交の場について。
⇩ 2階の前田侯爵家の生活の場の解説。
和館
前田侯爵邸には、洋館の小食堂横から渡り廊下でつながった和館があります。
外国からの賓客を日本文化でもてなしたり、節句やお正月の行事で使われ、生活の場ではなかったようです。
通常は1階のみ公開中ですが、期間限定のガイドツアーでのみ、2階も見学できるようです。
⇩ 見学者は一旦建物の外へ出て、門を通って向かいます。
⇩ 和館の御客間
⇩ 当時の和館御客間。
⇩ 書院も立派です。
⇩ 欄間の透かし彫りが見事。
⇩ お庭には、金沢の兼六園を思い出させる雪釣りと灯篭があります。
駒場公園 旧前田家本邸(旧前田侯爵邸)のデータとアクセス
所在地:目黒区駒場四丁目3番55号
最寄り駅:京王井の頭線「駒場東大前」駅(西口)下車徒歩8分
小田急線「東北沢」駅下車徒歩13分
開園時間:午前9時から午後4時30分まで(夜間閉鎖/和館は午後4時まで)
休園日:毎週月曜日。年末年始12月29日から1月3日。(月曜日が祝日と重なる場合はその翌日以降直近の平日)
前田侯爵邸を舞台にした小説「抱擁(辻原登)」